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2005年03月10日
「私たち、バカじゃないからやめるんです」

ときどき、昔話をする。このblogでも、ときどきしてみよう、と、思う。で、今回この表題、誰が言ったものか、わかりますか?もう20年以上前の話だけれどね。なぜここにそれを書いておくか、というと、この発言はその場で聞いた人しか聞けないものだったから。この一言は、後の記録で消されたから。この声の主は「キャンディーズ」の伊藤蘭。
最初に種明かしをする。この発言をしたのは、往年のアイドル3人組「キャンディーズ」だ。場所は後楽園球場。彼女らの最後の大イベント「ファイナル・カーニバル」で、最後の曲の前に、伊藤蘭がこう言った。
「こんなにいいときにやめるなんて、君たちはバカだ、って、いろんな人に言われました。でも私たち、バカじゃない。バカじゃないからやめるんです!」
彼女のこの言葉の最後は、本当に力強かった。満場の彼女らのファンは、このことばに精一杯拍手した。
実は、ぼくはキャンディーズのファンじゃない。だいたい、アイドルグループなんてのに、熱を上げること自身が、嫌いなタイプなんだな。でも、たまたまそのファイナルカーニバルの舞台を作ったり、壊したりするアルバイトのクチが回ってきた。公演中はスタッフとして会場には出入り自由なんだが、そのこと自身は、ぼくはどうでもよかった。見たくもなかった。ぼくが大学生。二十歳のときのことだった。
だから、なんとはなしに、その公演を見ていた。そして、その公演が終わりかけるころ、彼女のこの一言が聞こえた。熱狂の渦巻く後楽園球場には場違いとも思える、明らかなその本音を力強く語ったことば。それはぼくの心に、かなり強烈に残った。この公演の前後では「普通の女の子に戻りたい」なんてことばが流行するほどだったけれど、そういうきれいごとのことばとはあきらかに違う「自分たちはバカじゃない」って、このことばのほうが、ぼくには印象に残った。簡単に言えば、それまでぼくは「アイドル」をバカにしていた。それに熱狂するやつらもバカにしていた。
でも、この伊藤蘭の一言を聞いたとき、ああ、そういうことか、と納得した。彼女らの置かれているその場所のしんどさが伝わってきた。ぼくはその自分たちの最後を飾る場で、その一言をどうしても言いたかった彼女らに同情した。
その後、大学のときの友達が、そのキャンディーズ・ファイナルカーニバルのレコードを買っていた。ぼくはそれを聞かせてもらった。「その部分」が気になってしかたがなかった。だから、最後のほうだけ、聞かせてもらった。そしたら、そこの部分は、音声が合成されて、明らかに変えられていた。「キャンディーズは不滅です」とかなんとかいう、印象深くもなんともないことばに。おそらく、レコードにするにあたって、この部分を、他の部分から持ってきた別の音声と合成したか、あるいは彼女自身に、違うことばを吹き替えてもらったのだろう。もし吹き替えが公演の後に行われたのだとしたら、彼女はどんな気持ちでそれをしたのだろう?
現場にいた人間だけが知る事実って、こんなものだよ。
そして、blogはそれを暴いていく。blogはそういう媒体でなければならない、と、ぼくは思う。素人探偵ならぬ、素人記者こそが、世の中を変えていくんじゃないかな?
もう20年以上の前の話だけれど、やっぱりちゃんと書いておきたかった。いま、年齢を経たぼくがその場面を思い出すと、涙が出てくる。きれいごとばかりで閉塞している世の中の実像を、ぼくらが暴いていく必要が、やっぱりあるんだろう。きれいごとの陰で泣く、弱い立場の人たちの声や、消された叫びを、少しでも、どこかでちゃんと記録しておきたい。そう思っている。
投稿者 nori-m : 2005年03月10日 00:00